千葉地方裁判所 昭和61年(行ウ)2号 判決 1991年10月28日
千葉県八日市場市イの一三八番地一〇
原告
那須ハイランドワイン株式会社
右代表者代表取締役
加藤宗一
右訴訟代理人弁護士
横井治夫
千葉県銚子市栄町二丁目一番一号
被告
銚子税務署長 石川新
右指定代理人
田中治
同
高橋幸二
同
鮫田省吾
同
冨田斉
同
遠藤家弘
同
白石信明
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対して昭和五九年三月三一日付けで行った。
(一) 原告の昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度にかかる法人税の更正処分
(二) 原告の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度にかかる法人税の更正処分のうち、欠損金額三三四一万二三五〇円を超える部分及び法人税額一五〇八万三九〇〇円並びに加算税の賦課決定処分、並びに
(三) 原告の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度にかかる法人税の更正処分及び加算税の賦課決定処分
をそれぞれ取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
(一) 本訴のうち、被告が昭和五九年三月三一日付けで行った原告の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度の法人税にかかる重加算税賦課決定処分の取消しを求める部分を却下する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
2 本案の答弁
主文の同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、青色申告法人であるが、<1>昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五四年三月期」という。)にかかる法人税額等の確定申告及び修正申告を別表1の所定欄記載のとおりに、<2>昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五七年三月期」という。)にかかる法人税額等の確定申告を別表2の所定欄記載のとおり、<3>昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五八年三月期」という。)にかかる法人税額等の確定申告を別表3の所定欄記載のとおりにそれぞれ行ったところ、被告は、昭和五九年三月三一日付けで、<1>昭和五四年三月期にかかる法人税額等について別表1の所定欄記載のとおりに更正処分(以下「本件Ⅰの更正処分」又は単に「本件Ⅰ処分」という。)をし、<2>昭和五七年三月期にかかる法人税額等について別表2の所定欄記載の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税について別表2の所定欄記載のとおりに加算税の賦課決定処分(以下「本件Ⅱの更正処分及び加算税の賦課決定処分」又は単に「本件Ⅱの処分」という。)をし、<3>昭和五八年三月期にかかる法人税額等について別表3の所定欄記載のとおりに更正処分及び過少申告加算税額について別表3の所定欄記載のとおりに加算税の賦課決定処分(以下「本件Ⅲの更正処分及び加算税の賦課決定処分」又は単に「本件Ⅲの処分」という。)をしたので、原告は、昭和五九年五月二八日、国税不服審判所長に対し、本件ⅠないしⅢの各処分について別表1ないし3の所定欄記載のとおりに審査請求をしたが、同所長は、昭和六〇年一〇月二一日付けで、右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、原告に対し、同年一一月二二日付けで、裁決書謄本を送達した。
2 しかしながら、被告の本件ⅠないしⅢの各処分は、次のとおり違法なものである。
(一) 本件Ⅰの処分について
固定資産売却益の処理に関して仮装計上がある旨の誤認をした結果、更正の期間制限に反する違法な処分をしている。
(二) 本件Ⅱの処分について
第三者に帰属する所得金額を原告に帰属すると誤認して違法な処分をしている。
(三) 本件Ⅲの処分について
いずれも違法な処分であって取消しを免れない本件Ⅰ及びⅡの各処分を前提として違法な処分をしている。
よって、原告は、被告が原告に対して昭和五九年三月三一日付けで行った。
(一) 本件Ⅰの更正処分の、
(二) 本件Ⅱの更正処分のうち欠損金額三三四一万二三五〇円を超える部分及び法人税額一五〇八万三九〇〇円並びに加算税の賦課決定処分の、
(三) 本件Ⅲの法人税の更正処分及び加算税の賦課決定処分の各取消しを求める。
二 本案前の抗弁
原告は、国税不服審判所長に対して昭和五九年三月三一日付けで本件重加算税賦課決定処分についても審査請求をしたが、同年一〇月三一日付けで、「審査請求の一部取下げについて」と題する書面をもって、右処分の審査請求を取り下げた。したがって、本訴のうち右処分の取消しを求める部分は、国税通則法(以下「法」という。)一一五条一項所定の不服申立ての前置を欠く不適法なものである。
三 本案前の抗弁に対する認否
本案前の抗弁のうち、事実は認めるが、主張は争う。本件Ⅱの更正処分の所得金額が取り消された場合には、昭和五七年三月期の所得金額は自認額の二五〇万六〇〇〇円となるが、この金額は申告欠損金額三五九一万八三五〇円に満たないから、法人税額は〇円となり、本件重加算税賦課決定処分はその基礎を失うことになる。原告代理人は、担当審判官から、「基礎となる所得金額を争っていないのであるから重加算税賦課決定処分の取消請求部分は取り下げたらどうか。」との示唆を受け、右の欠損金額との関係などを考慮することなく、考え違いをして右審査請求を取り下げてしまったが、それはそれとして、原告は、本件Ⅱの更正処分の所得金額の取消しを審査請求している以上、論理必然的に本件重加算税賦課決定処分の取消しも審査請求したことになるのであるから、このような場合には、本件重加算税賦課決定処分について国税不服審判所長の裁決を経由しないでその取消しを訴えを提起することができるというべきである。しかも、本件においては右に述べたとおり加算税の基礎となる本税が存在しない場合であって、「本税のないところに加算税はあり得ない」という、ごく当たり前の事理からいって、本税の更正処分と加算税の賦課決定処分との別個独立の処分性について本税が存在する場合と同一に論じることができないことは多言するまでもないところである。
四 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1のうち、原告が本件Ⅱの加算税の賦課決定処分中の重加算税に関する部分(以下、この部分のみを「本件重加算税賦課決定処分」ということがある。)について国税不服審判所長の裁決を受けたことは否認し、その余の事実は認める。
2 請求の原因2の主張は争う。
五 抗弁
1 本件Ⅰの更正処分の根拠及び適法性について
(一) 昭和五四年三月期の所得金額について
原告の同期の所得金額は、別表4記載のとおりである。このうち固定資産売却益計上漏れ五億一六九六万〇八九八円について詳述すると、次のとおりである。
(1) 原告は、昭和五三年四月二七日、村本不動産株式会社(以下「村本不動産」という。)に対し、原告の所有する別表5記載<1>及び<2>の各土地並びに<21>の建物とその有する別表5記載<3>ないし<20>の各土地賃借権(以下、これらを合わせて「物件A」という。)を代金七億円で売却し、譲渡原価五三七九万八八九八円を差し引いて固定資産売却益六億四六二〇万一一二二円を得た。ところが、原告は、右固定資産売却益を原告、株式会社大洋興産(以下「大洋興産」という。)及び株式会社千葉農林(以下「千葉農林」という。)が別表6記載のとおりに配分したとして、このうち一億二九二四万〇二二四円のみを収益の額として計上し、残額五億一六九六万〇八九八円を大洋興産及び千葉農林に対する未払金とする旨の会計処理を行い、これを原告の益金に算入しなかった。そこで、被告は、右残額を原告の同期の申告所得金額に加算した。
(2) 大洋興産に対する配分額四億五二三四万〇七八六円及び千葉農林に対する配分額六四六二万〇一一二円は、原告の同期の総勘定元帳の未払金勘定(負債)には一応計上されているが、大洋興産及び千葉農林の各決算期である昭和五四年一二月期(同年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度)の会計帳簿には未収金等の資産勘定に計上されておらず、また、大洋興産及び千葉農林が右各金額を収益の額に計上していた事実も認められなかった。ところが、大洋興産及び千葉農林は、それぞれ、被告の原告に対する法人税調査を契機として、被告に対し、昭和五九年三月一五日付けで、右配分にかかる譲渡益の額を昭和五四年一二月期の益金の額に算入する旨の法人税修正申告書を提出した。
(3) しかしながら、以下に述べる事実を総合すれば、前記固定資産売却益六億四六二〇万一一二二円は、全額原告の昭和五四年三月期の益金の額に算入されるべきものである。
ア 原告は、別表5記載<1>及び<2>の各土地について、昭和四三年四月四日にローズウイスキー株式会社(以下「ローズウイスキー」という。)との同年二月二五日の売買を原因とする所有権移転登記を経由している。
イ 原告は、別表5記載<3>ないし<11>、<14>ないし<17>、<19>及び<20>の各土地について、昭和四三年八月三日に所有者である宗教法人慈眼寺(以下「慈眼寺」という。)との同年六月四日の賃貸借契約を原因とする賃借権設定登記を経由している。
ウ 原告は、別表5記載<1>及び<2>の各土地については右アの取得時から、別表5記載<3>ないし<11>、<14>ないし<17>、<19>及び<20>の各土地の賃借権については右イの設定時からいずれも前記売却時までの各期の確定決算において、これらを原告が所有し又は有する資産として賃借対照表の固定資産の部に計上していた。
エ 原告は、昭和四三年五月九日、物件Aの管理を目的として、その所在地である埼玉県狭山市入間川三丁目三一番一号に支店を開設し、これを商業登記簿に登記した。
オ 原告は、物件Aを取得してから売却するまでの間にこれについて生じた賃貸料収入及びその支払地代、固定資産税、管理費諸費等の経費を原告の各事業年度の収益及び費用としてそれぞれ経理していた。
カ 昭和五三年四月二七日に村本不動産に対して物件Aを売却する際に取り交された「土地売買並びに借地権譲渡契約書」及び「協定書」では、共に原告が売主になっている。
キ 物件Aの売買代金七億円のうち三億円は同日村本不動産から千葉銀行八日市場支店の原告名義の普通預金口座に振込み送金され、残りの四億円は昭和五四年二月一三日に村本不動産から平和相互銀行千葉支店に振込み送金されて原告の同銀行からの借入金の返済に充てられている。
また、損金算入繰越欠損金四億七二三〇万九六一二円は、昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度の繰越欠損金八二八三万一六一九円、同年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度の繰越欠損金九八〇一万九五二七円、同年四月一日から昭和五一年三月三一日までの事業年度の繰越欠損金五九五五万六〇三二円及び昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの事業年度の繰越欠損金二億三一九〇万二四三四円の合計四億七二三〇万九六一二円を昭和五四年三月期の申告所得金額から減算したものである。
以上のとおり、原告の同期の所得金額は、〇円である。
(二) 更正の期間制限を徒過していないことについて
前述したとおり、原告は、同期の所得金額について、本来その全部が自己に帰属すべき固定資産の売却益のうち、その八割相当額を原告の実質的オーナーである宇野亨(以下「宇野」という。)の支配下にある大洋興産及び千葉農林に帰属するものであると偽りその他不正の手段を用いて固定資産の売却益を過少に計上し、同期の欠損金額を四四六五万一二八六円、翌期へ繰り越す欠損金額を五億三一六二万一八四九円とする法人税の申告を行い、後続事業年度において右欠損金額を控除することによって、当該後続事業年度の法人税額を不正に免れたものである。このことは、法七〇条(昭和五六年法律第五四号による改正前のもの)二項四号に規定する「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた」ことに該当する。よって、被告は同項の規定による法定申告期限から五年を経過する日までの期間内に本件Ⅰの更正処分を行ったものであり、もとより右処分には更正の期間制限を徒過した違法は存しない。
(三) 本件Ⅰに更正処分の適法性について
以上のとおり、原告の昭和五四年三月期の所得金額は〇円であり、これと同額を原告の同期の所得金額としてした本件Ⅰの更正処分は、適法である。
2 本件Ⅱの更正処分及び加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
(一) 本件Ⅱの更正処分の根拠及び適法性について
(1) 昭和五七年三月期の所得金額について
原告の同期の所得金額は、別表7記載のとおりである。このうち、申告所得金額を除く事項について順次詳述すると、次のとおりである。
ア 賃借権譲渡収入計上漏れ 二億三一八六万五六〇〇円
原告は、昭和五六年四月二四日、東京運送有限会社(以下「東京運送」という。)に対し、原告の有する別表8記載<1>ないし<5>の土地の賃借権及びその所有する別表8記載<6>の建物(以下、これらを合わせて「物件B」という。)を代金二億二九六〇万円で、同年九月九日、東京交通株式会社(以下「東京交通」という。)に対し、原告の有する別表9記載の土地の賃借権及びその所有する別表9記載の建物(以下、これらを合わせて「物件C」という。)を代金六〇二三万二〇〇〇円でそれぞれ譲渡した。ところが、原告は、右譲渡代金合計二億八九八三万二〇〇〇円を原告、大洋興産及び千葉農林が別表10の各社別配分額欄記載のとおりに配分したとして、このうち別表10の各社別計上欄記載の原告の譲渡代金額五七九六万六四〇〇円のみを収入金額として計上し、残額二億三一八六万五六〇〇円を計上しなかった。確かに右配分どおりの額が原告、大洋興産及び千葉農林のそれぞれの収入に計上されているが、次の(ア)ないし(キ)に述べる事実からすれば、右譲渡代金の全額は、原告の収入に計上すべきことが明らかである。そこで、被告は、右残額を原告の同期の申告所得金額に加算した。
(ア) 原告は、別表8記載<1>ないし<3>及び別表9記載の各土地について、昭和四三年一二月二五日に所有者である宗教法人徳林寺(以下「徳林寺」という。)との同年一一月二五日の賃貸借契約を原因とする賃借権設定登記を、別表8記載<4>及び<5>の各土地について、同年八月三日に所有者である慈眼寺との同年六月四日の賃貸借契約を原因とする賃借権設定登記をそれぞれ経由している。
(イ) 同年一一月二五日付けで徳林寺から別紙8記載<1>ないし<3>及び別表9記載の各土地を賃借する際に同寺住職松正宣との間で取り交された「土地賃貸借契約書」では、原告が賃借人になっている。
(ウ) 原告は、右の各土地の賃借権と別表8記載<4>及び<5>の各土地の賃借権についてはそれぞれ右(ア)の取得時から前記譲渡時までの各期の確定決算において、これらを原告が有する地上権又は借地権として貸借対照表の固定資産の部に計上していた。
(エ) 原告は、物件B及びCを取得してから譲渡するまでの間にこれらについて生じた賃貸料収入及びその支払地代、固定資産税、管理費諸費等の経費を原告の各事業年度の収益及び費用としてそれぞれ経理していた。
(オ) 昭和五六年四月二四日付けで東京運送に対して物件Bを譲渡する際に取り交された「賃借権譲渡契約書」及び同年九月九日付けで東京交通に対して物件Cを譲渡する際に取り交された「賃借権譲渡契約書」では共に原告、大洋興産及び千葉農林が譲渡人になっているが、それは、右各譲渡の交渉段階においては当初から原告のみが譲渡人になっていたところ、最終段階になって次の(キ)に述べる宇野の要請により大洋興産及び千葉農林が名義上の譲渡人に加わることになったものである。
(カ) 原告の代表者は加藤宗一となっているが、同人は、原告の営業、経理等の業務には一切関与しない肩書だけの代表者であって、原告、大洋興産及び千葉農林の実質経営者は、宇野である。
(キ) 物件B及びCの各譲渡代金はそれぞれ原告、大洋興産及び千葉農林の取引金融機関に振り込まれているが、譲受人である東京運送及び東京交通側の譲渡人の認識は、登記簿上の権利者である原告であり、譲渡代金が原告、大洋興産及び千葉農林の取引金融機関に振り込まれたのは、支払段階に至って宇野から要請があったことによるものである。
イ 賃借権譲渡にかかる清算金の計上漏れ 二五〇万六〇〇〇円
原告が同年四月二四日付けで東京運送に対して物件Bを譲渡する際に取り交された「賃借権譲渡契約書」の物件目録に記載されている賃借面積と実測面積との間に七・〇坪の差異があったため、東京運送は、同年七月一七日、原告の実質経営者である宇野に対し、清算金として二五〇万六〇〇〇円を支払ったが、右金員は本来原告に帰属すべきものであるところ、原告がこれを収益の額に計上していなかったので、申告所得金額に加算した。
ウ 雑収入計上漏れ 五〇四万円
原告は、ローズウイスキーに対し、物件B及びCを物件Aと共に賃貸し、賃料は原告が収受すべきものであるにもかかわらず、ローズウイスキーから支払われた昭和四五年四月から昭和五三年三月までの賃料のうち五〇四万円を昭和五七年三月三一日に大洋興産に振り替えて原告の雑収入を減額していたので、申告所得金額に加算した。
エ 賃借料の否認 七二万円
右ウのローズウイスキーから支払われた賃料のうち七二万円を千葉農林が昭和五六年一二月三一日に雑収入に計上し、原告は、同日、これを自己の費用である賃借料として損金処理をしていた。しかし、右ウで述べたとおり右七二万円は原告が収受すべきものであって、原告の賃借料として損金に算入すべき理由がないので、申告所得額に加算した。
オ 寄付金の損金不算入 二億一一七六万七六五一円
原告は、後のケで述べるように、本来原告に帰属すべき収益の額及び費用の額を大洋興産及び千葉農林に振り替え、大洋興産及び千葉農林がそれぞれ一億八五五八万九六五八円及び二八四一万二三七〇円の利益を亨受しているところ、右各金額に見合う反対給付を受けている事実がないので、右金額の合計額二億一四〇〇万二〇二八円は、法人税法三七条五項に規定する寄付金に該当するものと認められる。そして、右寄付金の金額の損金算入限度額を計算すると、次の算式のとおり二億一一七六万七六五一円が損金不算入額となるから、これを申告所得金額に算入した。
<1> 繰越欠損金控除前所得金額 欠損金三五三一万一九一二円
<2> 寄付金の額 二億一四〇〇万二〇二八円
<3> 寄付金支出前所得金額(<1>+<2>) 一億七八六九万〇一一六円
<4> <3>×一〇〇分の二・五=四四六万七二五三円
<5> 昭和五七年三月期末の資本等の金額 六〇万円
<6> <5>×一〇〇〇分の二・五=一五〇〇円
<7> 寄付金の損金不算入限度(〔<4>+<6>〕×二分の一) 二二三万四三七七円
<8> 寄付金の損金不算入額(<2>-<7>) 二億一一七六万七六五一円
カ 賃借権譲渡原価の認容 一五一九万六四九四円
本件(1)のアで述べたとおり、物件B及びCの譲渡収入は全額原告の譲渡収入となるべきものであるから、大洋興産及び千葉農林に配分した譲渡原価一三二九万六九三二円及び一八九万九五六二円の合計一五一九万六四九四円を原告の譲渡原価として申告所得金額から減算した。
キ 補償費の認容 三八八万八〇〇〇円
右に述べたとおり、物件B及びCの譲渡収入は全額原告の譲渡収入となるべきものであるから、大洋興産及び千葉農林が昭和五六年一二月三一日にそれぞれ賃借人のローズウイスキーの従業員の立ち退き等の補償費として計上した三四〇万二〇〇〇円及び四八万六〇〇〇円の合計三八八万八〇〇〇円を申告所得金額から減算した。
ク 雑収入計上の認容 六四三万八六四〇円
原告は、徳林寺及び慈眼寺に支払った地代のうち大洋興産に五六三万三八一〇円を、千葉農林に八〇万四八三〇円をそれぞれ振り替え計上させて、同日に六四三万八六四〇円を雑収入に計上した。しかし、本項(1)のアで述べたとおり両寺からの賃借人は原告であって、この地代は原告が負担すべきものであるから、大洋興産及び千葉農林に振り替えた右六四三万八六四〇円を申告所得金額から減算した。
ケ 寄付金の認容 二億一四〇〇万二〇二八円
本項(1)のア、ウ、エ、キ及びクで述べたとおり、原告は、本来自己に帰属すべき収益の額及び費用の額を大洋興産及び千葉農林に振り替え、これによって大洋興産及び千葉農林は、それぞれ別表11記載のとおり一億八五五八万九六五八円及び二八四一万二三七〇円の利益を享受しているところ、その合計二億一四〇〇万二〇二八円は、本項(1)のオで述べたとおり法人税法三七条五項に規定する寄付金に該当すると認められるので、これを申告所得金額から減算した。
コ 損金算入繰越欠損金 一億三八二五万五五六二円
昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの事業年度の繰越欠損金一〇九〇万五一六二円、昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度の繰越欠損金二七二五万一一九〇円及び同年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度の繰越欠損金一億〇〇〇九万九二一〇円の合計一億三八二五万五五六二円を申告所得金額から減算した。
(2) 本件Ⅱの更正処分の適法性について
以上のとおり、原告の昭和五七年三月期の所得金額は三八二〇万〇一七七円であり、これと同額を原告の同期の所得金額とした本件Ⅱの更正処分は、適法である。
(二) 本件Ⅱの加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
(1) 過少申告加算税の根拠及び適法性について
被告は、本件Ⅱの更正処分をしたことに伴い、法六五条一項の規定に基づいて、右更正処分により納付すべき本税の額一五〇八万三九〇〇円から重加算税の対象とされるべき一〇五万二〇〇〇円を差し引いた残額一四〇三万一〇〇〇円(法一一八条三項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。以下、同じ。)の規定により一〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税の賦課決定をしたものであるから、本件Ⅱの加算税の賦課決定処分中過少申告加算税の賦課決定処分は、適法である。
(2) 重加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
原告は、昭和五七年三月期において、前項(1)のイで述べたように、賃借権譲渡にかかる清算金を会計帳簿に記録せず、右清算金二五〇万六〇〇〇円を原告の実質経営者である宇野に領得させていた事実は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装して、その隠ぺいし又は仮装したところに基づいて法人税の確定申告書を提出したことにほかならない。
よって、被告は、法六八条一項に基づいて、本件Ⅱの更正処分により新たに納付すべき法人税額のうち一〇五万二〇〇〇円(法一一八条三項の規定により一〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の三〇の割合を乗じた三一万五六〇〇円に相当する重加算税を賦課決定したものであるから、本件Ⅱの加算税の賦課決定処分中重加算税の賦課決定処分は、適法である。
3 本件Ⅲの更正処分及び加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
(一) 本件Ⅲの更正処分の根拠及び適法性について
(1) 昭和五八年三月期の所得金額について
原告の同期の所得金額は、別表12記載のとおりである。このうち、申告所得金額を除く事項について順次詳述すると、次のとおりである。
ア 過大控除した繰越欠損金 一億三〇一三万二二二三円
原告は、同期の申告に当たり、前期以前に発生した欠損金のうち昭和五八年三月期に繰り越した繰越欠損金が四億五〇七二万七六三二円あるとして、このうち一億三〇一三万二二二三円を同期の繰越欠損金控除前の所得金額から控除し、別表12記載の1のとおり申告所得金額を〇円として申告した。しかしながら、右繰越欠損金は、本件Ⅰ及びⅡの各更正処分の結果、既に全額控除済みであって、原告が同期に繰り越した繰越欠損金は存しない。したがって、原告が同期において繰越欠損金として一億三〇一三万二二二三円を控除したのは過大控除と認められるので、申告所得金額に加算した。
イ 未納事業税の認容 四二六万九〇〇〇円
本件Ⅱの更正処分により増加した所得金額にかかる事業税相当額を申告所得金額から減算した。
(2) 本件Ⅲの更正処分の適法性について
以上のとおり、原告の昭和五八年三月期の所得金額は一億二五八六万三二二三円であり、これと同額を原告の同期の所得金額としてした本件Ⅲの更正処分は、適法である。
(二) 本件Ⅲの加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
被告は、本件Ⅲの更正処分をしたことに伴い、法六五条一項の規定に基づいて、右更正処分により納付すべき別表3記載更正賦課決定欄のとおり本税の額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税の賦課決定をしたものであるから、本件Ⅲの加算税の賦課決定処分は、適法である。
六 抗弁に対する認否
1(一)(1) 抗弁1の(一)の冒頭の事実のうち、別表4記載の申告所得金額は認めるが、その余は否認する。
(2) 抗弁1の(一)の(1)のうち、外形的取引経緯及び会計処理は認めるが、売却益が全額原告に帰属し一部を益金の額に算入したのみで残りは大洋興産及び千葉農林に配分したとして算入しなかった旨の事実は否認する。
物件Aの実質上の所有者及び権利者は、大洋興産であり、原告は単にそれらの名義を提供したものに過ぎないから、売却益は、全額実質上の所有者及び権利者である大洋興産に帰属するものである。
大洋興産は、かねてから国華酒造株式会社(以下「国華酒造」という。)に対して資金援助をしていたが、昭和四一年一〇月一日、その所有する別表5記載<1>及び<2>の各土地についてそれまでの融資額合計五〇〇〇万円を元本極度額とする根抵当権設定契約及びその被担保債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結し、同月一二日、その旨の根抵当権設定登記及び停止条件付き所有権移転仮登記を経由した。国華酒造は埼玉県狭山市入間川三、三一等所在の酒造工場を系列会社のローズウイスキーに経営させることに伴い、ローズウイスキーに対し、同工場等の建物とその敷地である別表5記載<1>及び<2>の各土地の所有権、別紙5記載<3>ないし<20>、別表8記載<1>ないし<5>及び別表9記載の各土地の賃借権等権利の一切を譲渡した。ローズウイスキーは、別表5記載<1>及び<2>の各土地を担保にするなどして営業資金を調達していたが、やがて資金繰りに窮し、大洋興産に対し、資金援助を要請した。大洋興産は、それを受けて、昭和四二年一一月六日、抵当権者シルバーウイスキー株式会社(以下「シルバーウイスキー」という。)の有する債権一〇二八万一〇〇〇円を債務者ローズウイスキーに代位して弁済し、その抵当権の移転を受けた。ローズウイスキーの資金繰りは、その後ますます悪化し、昭和四三年初めごろついに右工場経営を断念するのやむなきに至り、ローズウイスキーは、大洋興産に対し、その経営権の引受けを要請した。大洋興産は、右要請を受諾し、ローズウイスキーの有する資産、負債の一切を承継して経営権を譲り受けることにしたが、そのために、更に約一億円の資金が必要であった。大洋興産は、かねてから取引のあった平和相互銀行千葉支店から右資金を借り入れることにしてその申込みをしたところ、同銀行貸出枠との関係で他の名義上の借主に対する貸出実行を示唆されたので、関連会社である原告(当時の商号は、東宝化学工業株式会社。同年五月八日、現在の商号に変更)を名義上の借主とすることにした。原告を名義上の借主とする同銀行千葉支店と大洋興産との融資交渉は、昭和四三年二月ごろには既にまとまっていたが、ローズウイスキーから引き継ぐ資産のうち賃借権の譲受けについては地主との交渉が長引いていた。そこで、大洋興産は、取りあえず別表5記載<1>及び<2>の各土地について所有権移転登記申請をすることにしたが、右各土地を同銀行千葉支店からの借入金の担保に供するので、名義上の借主となる予定の原告を登記簿上の所有名義人にすることとし、右各土地について同年四月四日付けで原告のために同年二月二五日売買を原因とする所有権移転登記を経由した。大洋興産は、ローズウイスキーの有していた右賃借権のうち慈眼寺の分について同寺との交渉がまとまった同年六月四日、同銀行千葉支店から、原告を名義上の借主として、一億円を借り受け、これに伴い、右各土地について、右借入額を元本極度額とし、名義上の借主である原告を債務者とし、同銀行を根抵当権者とする根抵当権設定契約及びその被担保債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結し、同月六日付けで根抵当権設定登記及び条件付き所有権移転仮登記をした。なお、大洋興産は、同月四日右各土地について右の国華酒造から設定を受けた根抵当権及びシルバーウイスキーから移転を受けた抵当権の各順位を同銀行に譲渡し、同月八日付けでその旨の各登記をした。大洋興産は、ローズウイスキーの有していた右賃借権の譲渡について各地主と交渉を行い、それぞれ賃貸借契約を締結したが、右に述べたとおり賃借権譲渡代価を含め所要資金の名義上の借主を原告とした関係から、右各賃貸借契約を原告を名義上の賃借人として締結することとし、同月四日、慈眼寺と、別表5記載<3>ないし<11>、<14>ないし<17>、<19>及び<20>と別表8記載<4>及び<5>の各土地の建物所有を目的とする賃貸借契約を締結すると共に同年八月三日付けで賃借権設定登記を経由し、同年一一月二五日、徳林寺と、別表8記載<1>ないし<3>と別表9記載の各土地の建物所有を目的とする賃貸借契約を締結するとともに同年一二月二五日付けで賃借権設定登記を経由した。大洋興産は、右各賃貸借契約において原告を名義上の賃借人としたことに伴い、右各賃貸借契約において連帯保証人になると共に、契約締結後三年以内における転貸借又は賃借権譲渡の相手方の指定権を有する旨を右各賃貸借契約書に明記した。以上のとおり物件Aの実質上の所有者及び権利者は、大洋興産である。
そして、大洋興産が村本不動産に対する物件Aの売却益を所有者である自社、名義提供者である原告及び関連会社である千葉農林に七、二及び一の割合で配分したので、売主名義を提供した原告は、便宜上、その配分処理をした上、原告の配分額を益金の額に算入して申告したのである。
(3) 同1の(一)の(2)の事実は認める。しかし、大洋興産及び千葉農林の会計処理及び申告が被告の主張のようになってしまったのは、当時、大洋興産社長宇野の選挙違反事件に関連して大洋興産及び千葉農林の会計帳簿等が捜査当局に押収されていた上、会計担当者が通院加療中であったことなどから同担当者の事務上の過誤によって所要の処理がなされないままになっていたところ、被告の調査の機会に、同担当者が過誤に気付いて直ちに所要の修正申告をしたことによるのである。
(4)ア 同1の(一)の(3)の冒頭の主張及び末尾前段の損金算入繰越欠損金に関する主張はいずれも争う。
イ 同1の(一)の(3)のア及びイのうち、各外形的事実は認めるが、原告が名実共に所有者及び権利者である旨の事実は否認する。
ウ 同1の(一)の(3)のウないしオのうち、各外形的事実は認めるが、原告が名実共に所有者及び権利者である旨の事実は否認する。
大洋興産は、六の1の(一)の(1)で述べた経緯によって、原告に物件AないしCの各取得名義を提供させたことに伴い、昭和四三年の取得時から物件Aについては昭和五三年の、物件B及びCについては昭和五六年の各譲渡時までの間、原告に物件AないしCの保有名義を提供させていた。しかし、大洋興産は、実質上、この間における物件AないしCの関連費用を負担支出していた。保有名義を提供した原告は、その都度、大洋興産から仮受けした資金で右関連費用の支払をしていたが、保有名義を提供していた関係上、原告の帳簿を通す趣旨で原告の経費として処理していた。大洋興産は、物件AないしCの管理などのため、昭和四三年五月九日、埼玉県狭山市入間川三-三一-一に支店を設置したが、物件AないしCの保有名義を提供させていた形式に符号させるため、外形上、原告の支店としてその登記などを行った。大洋興産は、ローズウイスキーに対し、無償で物件AないしCを使用させていたが、被告の指示に従い、未収賃料を認定した上、これを保有名義人である原告の収益として計上させていた。
エ 同1の(一)の(3)のカ及びキのうち、各外形的事実は認めるが、原告が名実共に所有者及び権利者である旨の事実は否認する。
大洋興産は、昭和五三年四月二七日に村本不動産に対して物件Aを代金七億円で売却したが、六の1の(一)の(1)及び(3)のイで述べたとおり、原告に物件Aの取得及び保有の各名義を提供させていた関係上、右売却についても原告を名義上の売主として処理した。それに伴い、原告は、形式上の売主として、右売買契約書の作成名義人となり、代金の受領名義人となった。
(二) 抗弁1の(二)のうち、売却益の全部が原告に帰属することは否認し、原告が偽りその他不正の手段を用いて固定資産の売却益を過少に計上し、後続事業年度の法人税額を不正に免れている旨の主張は争う。
(三) 抗弁1の(三)の主張は争う。
2(一)(1) 抗弁2の(一)の(1)の冒頭の事実のうち、別表7記載の申告所得金額及び賃借権譲渡にかかる清算金の計上漏れの金額は認めるが、その余は否認する。
ア(ア) 同2の(一)の(1)のアの冒頭の事実のうち、外形的取引経緯及び会計処理は認めるが、譲渡収入が全額原告に帰属しているのに二割相当額のみ計上し、残額は大洋興産及び千葉農林に配分して原告の収入金額に計上していない旨の事実は否認する。
六の1の(一)の(1)で述べたとおり、物件B及びCの実質上の賃借人は大洋興産であって、原告は、取得名義を提供したにすぎず、譲渡収入は全額大洋興産に帰属するものである。
そして、大洋興産が東京運送に対する物件B及び東京交通に対する物件Cの各譲渡収入を権利者である自社、名義提供者である原告及び関連会社である千葉農林に七、二及び一の割合で配分したので、原告は、名義上の譲渡人である立場から、その配分処理をした上、原告の配分額を益金の額として処理したのである。
(イ) 同2の(一)の(1)のアの(ア)ないし(エ)のうち、各外形的事実は認めるが、原告が名実共に所有者及び権利者である旨の事実は否認する。
(ウ) 同2の(一)の(1)のアの(オ)ないし(キ)のうち、各外形的事実((カ)の原告の代表者の役割に関する事実を含めて)は認めるが、原告が名実共に所有者及び権利者である旨の事実および(カ)の原告、大洋興産及び千葉農林の実質経営者が宇野であることは否認し、(キ)の譲受人側の認識に関する事実は不知。
大洋興産は、昭和五六年四月二四日に東京運送に対して物件Bを代金二億二九六〇万円で、同年九月九日に東京交通に対して物件Cを代金六〇二三万二〇〇〇円でそれぞれ譲渡したが、物件Aの売却のときと同様に右譲渡収益を自社に七割の、名義提供者である原告に二割の、関連会社である千葉農林に一割の各割合で配分する予定であったところ、当時右割合による配分を否認した千葉農林に対する更正処分が係争中であったので、誤認を避けるため右割合で配分する予定の三社を譲渡人として処理した。
イ 同2の(一)の(1)のイのうち、外形的事実(清算金の金額を含めて)は認める。原告が賃借権譲渡にかかる精算金の計上漏れを審査請求の段階で自認したのは、取引名義人である原告の会計帳簿に記録されていなかったからである。
ウ 同2(一)の(1)のウのうち、原告がローズウイスキーに対して物件B及びCを物件Aと共に賃貸したことは否認し、その余の外形的事実は認めるが、原告が賃貸にかかる受取賃料を全額収受すべきものであることは争う。
エ 同2の(一)の(1)のエのうち、外形的事実は認めるが、原告が賃貸にかかる受取賃料を全額収受すべきものであることは争う。
オ 同2の(一)の(1)のオ及びケの各事実は否認する。譲渡益は実質上の権利者である大洋興産に全額帰属するものであり、大洋興産は、これを七、二及び一の割合で自社、原告及び千葉農林に配分したので、保有名義人である原告は、右配分割合により大洋興産と千葉農林に振り替えたのであって、それを大洋興産及び千葉農林に寄付したのではない。
カ 同2の(一)の(1)のカのうち、外形的事実は認めるが譲渡の収入及び原価の全額が原告に帰属する旨の事実は否認する。
キ 同2の(一)の(1)のキ及びクのうち、各外形的事実は認めるが、全額が原告に帰属する旨の事実は否認する。
ク 同2の(一)の(1)のコは争う。当期の翌期繰越欠損金額は、申告金額であって、売却益計上漏れ認定に基づく金額を損金算入繰越欠損金額とすることは誤りである。
(2) 抗弁2の(一)の(2)の主張は争う。
(二)(1) 抗弁2の(一)の(1)の主張は争う。昭和五七年三月期に原告の納付すべき法人税額はないので、本件Ⅱの加算税の賦課決定処分中の過少申告加算税の賦課決定処分は前提を欠いている。
(2) 抗弁2の(二)の(2)のうち、原告が昭和五七年三月期において賃借権譲渡にかかる精算金を会計帳簿に記録せず、右精算金二五〇万六〇〇〇円を原告の実質経営者である宇野に領得させていたことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。同期の所得金額は△三三四一万二三五〇円であって、原告が納付すべき法人税額はないので、本件Ⅱの加算税の賦課決定処分中の重加算税の賦課決定処分の前提を欠いている。
3(一)(1) 抗弁3の(一)の(1)の冒頭の事実のうち、別表12記載の申告所得金額は認めるが、その余は否認する。
ア 同3の(一)の(1)のアは争う。本件Ⅰ及びⅡの各更正処分は違法であって、取消しを免れないので、それに基づく控除済み繰越欠損金は存在しないことになる。
イ 同3の(一)の(1)のイは争う。本件Ⅱの更正処分は違法であって取消しを免れないので、それに基づく未納事業税は存在しないことになる。
(2) 抗弁3の(一)の(2)の主張は争う。
(二) 抗弁3の(二)の主張は争う。昭和五八年三月期に原告の納付すべき法人税額はないので、本件Ⅲの加算税の賦課決定処分は前提を欠いている。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。
理由
一 本案前の抗弁について
被告は、原告は昭和五九年一〇月三一日付けで国税不服審判所長に対する本件重加算税賦課決定処分取消しの審査請求を取り下げたから、本訴のうち右処分の取消しを求める部分は法一一五条一項所定の不服申立ての前置を欠く不適法なものである旨主張する。そして、原告が同所長に対して同年三月三一日付けで右処分についても取消しの審査請求をしたが、同年一〇月三一日付けで「審査請求の一部取下げについて」と題する書面をもって右処分取消しの審査請求を取り下げたことについては、当事者間に争いがない。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、本件Ⅱの更正処分の所得金額が取り消された場合には、昭和五七年三月期の所得金額は自認額の二五〇万六〇〇〇円となるが、この金額は申告欠損金額三五九一万八三五〇円に満たないから、法人税額は〇円となり、本件重加算税賦課決定処分はその基礎を失うことになるところ、原告代理人は、担当審判官から、「基礎となる所得金額を争っていないのであるから重加算税賦課決定処分取消し請求部分は取り下げたらどうか。」との示唆を受け、右の欠損金額との関係などを考慮することなく、考え違いをして右請求部分を取り下げてしまったことを認めることができ、右事実によれば、原告が昭和五九年一〇月三一日付けで同所長に対する本件重加算税賦課決定処分取消しの審査請求を取り下げたのは、原告代理人が右の欠損金額との関係などを考慮することなく考え違いをしたためであるが、原告代理人が右考え違いをしたのは、担当審判官の誤った示唆に促されたものであることを推認することができる。そして、更正処分に関する審査請求が適法になされたにもかかわらず審査庁が誤ってこれを却下した場合には、右更正処分の取消しを求める訴えは不服申立て前置の要件を充たしたものであると解されるところ(最高裁判所昭和三四年(オ)第九七三号昭和三六年七月二一日第二小法廷判決、民集一五巻七号一九六六頁参照)、原告が右担当審判官の誤った示唆に促されて適法にした本件重加算税賦課決定処分取消しの審査請求を取り下げたことは、それに準ずる場合であって、右処分と密接な関係にある本件Ⅱの処分のうちの更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分については国税不服審判所長の裁決を経ていること(このことについて、当事者間に争いがない。)をも考慮すると、法一一五条一項三号の定める裁決を経ないことについて正当な理由がある場合には当たる(なお、行政事件訴訟法八条二項三号参照)というべきである。したがって、被告の右主張は、理由がないものであるといわざるを得ない。
二 請求の原因について
請求の原因1の事実については、原告が本件重加算税賦課決定処分について国税不服審判所長の裁決が受けた点を除いて、当事者間に争いがなく、右処分について同所長の裁決を経ないことについて正当な理由があることは、前記のとおりである。
三 抗弁について
1(一) 成立(甲第七号証の一、二、乙第二七号証は、いずれも原本の存在・成立共)に争いのない甲第七号証の一、二、乙第三ないし第一七、第二四ないし第二七号証(ただし、甲第七号証の一、二は共に一部)、証人島田薫及び同宇野の各証言(ただし、共に一部)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の角括弧内の事実を除く事実を認めることができる(右認定に反する甲第七号証の一、二(別件における宇野の証人調書写し)の各記載部分並びに証人島田薫及び同宇野の各供述部分はいずれも採用できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)と共に、次の角括弧内の事実については、当事者間に争いがない。
原告の商号変更前の東寳化学工業株式会社(以下「東寳化学工業」という。)は、昭和二三年七月二九日、宇野の本籍地と同じ千葉県八日市場東小笹二三〇番地を本店所在地として、主として酒類の製造販売を目的として設立された法人であって、昭和四三年ごろまでは宇野が代表取締役に就任していた。ところで、国華酒造は、その所有する別表5記載<1>及び<2>の各土地について、自らの株式会社秋田銀行に対する昭和三五年七月二五日の銀行取引契約上の債務を担保するために同月二八日に元本極度額六〇〇〇万円の根抵当権設定契約を締結して同年九月七日にその旨の登記を経由したほか、子会社又は系列会社であるローズウイスキーの、株式会社武蔵野銀行に対する昭和三九年一〇月二七日の継続的手形取引契約上の債務を担保するために昭和四〇年八月一〇日に元本極度額二〇〇〇万円の根抵当権設定契約を締結し、同年八月一〇日には右元本極度額を三〇〇〇万円とする変更契約を締結して同年九月八日にそれぞれの旨の登記を、株式会社埼玉銀行に対する同年八月二七日の銀行取引契約上の債務を担保するために同日に元本極度額一〇〇〇万円の根抵当権設定契約を締結して同月二五日にその旨の登記を、
(二) 前掲乙第一七号証及び弁論の全趣旨を総合すると、次の角括弧内の事実を除く事実を認めることができると共に、次の角括弧内の事実については、当事者間に争いがない。
〔原告は、別表5記載<1>及び<2>の各土地については前記の取得時から、別表5記載<3>ないし<11>、<14>ないし<17>、<19>及び<20>の各土地並びに別表8記載<4>及び<5>の各土地の賃借権と別表8記載<1>ないし<3>の各土地並びに別表9記載の土地の賃借権については前記のそれぞれの設定時からいずれも後記のそれぞれの売却時までの各期の確定決算において、これらを原告が所有し又は有する資産として貸借対照表の固定資産の部に地上権又は借地権として計上していた。また、原告は、物件AないしCを取得してから後記の各譲渡するまでの間にこれについて生じた賃貸料収入及びその支払地代、固定資産税、管理費諸費等の経費を原告の各事業年度の収益及び使用としてそれぞれ経理していた。〕その上、原告は、昭和四四年三月二一日、目的を変更して、「宅地若しくは建物の売買若しくは交換、又は宅地若しくは賃貸の売買交換若しくは賃貸の代理若しくは媒介」を加え、その旨の商業登記を経由している。
(三) 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五〇号証、証人島田薫及び同宇野の各証言(ただし、証人宇野のそれは一部)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の角括弧内の事実を除く事実を認めることができる(右認定に反する証人宇野の供述部分は信用できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)と共に、次の角括弧内の事実については、当事者間に争いがない。
〔昭和五三年四月二七日に村本不動産に対して物件Aを売却する際に取り交された「土地売買並びに借地権」及び「協定書」では、共に原告が売主になっていた。そして、物件Aの売買代金七億円のうち三億円を同日村本不動産から千葉銀行八日市場支店の原告名義の普通預金口座に振込み送金され、残りの四億円は昭和五四年二月一三日に村本不動産から平和相互銀行千葉支店に振込み送金されて原告の同銀行からの借入金の返済に充てられている。〕なお、昭和四四年三月期の決算から長年にわたり原告の経理を担当していた会計事務所の事務員島田薫も、昭和五四年に宇野から言われるまで、物件Aの権利者は原告であると思っていた。
また、昭和五六年四月二四日に東京運送との間で行われた物件Bの譲渡において同社の常務取締役として譲渡人側との交渉に当たった宮木勝美は、契約直前まで譲渡人は原告とばかり思っていた。なお、同年九月九日に東京交通との間で行われた物件Cの譲渡は、右の物件Bの譲渡と一体となるものとして同時に交渉が行われたが、物件Cの居住者がいてその立ち退きに時間がかかったため、契約の締結が遅れたものであって、本来であれば物件Bの譲渡と同時に契約が締結されるべきものであった。
(四) 財産は通常法律形式上帰属する者に経済的実質もまた帰属すると解されるばかりでなく、以上の事実によれば、原告(東寳化学工業)は、ローズウイスキーから、別表5記載<1>2及び<2>の各土地並びに別表5、別表8及び別表9記載の各建物を、代金の支払に代えてローズウイスキー及び国華酒造の各債務(大洋興産に対する分をも含む。)を弁済する趣旨で買い受け、平和相互銀行から融資を受けて右各債務を弁済したこと、原告は、その後、直後に慈眼寺等から別表5記載<3>ないし<20>(別表8記載<4>及び<5>)の各土地を、徳林寺から別表8記載<1>ないし<3>(別表9記載)の各土地をそれぞれ賃借したこと、原告は、それらを取得後、その管理をしてきたことを推認することができるから、実質的に見てもそれらの資産を支配しその利益を享受してきたというべきである。次の事実は、右推認を左右するに足りるものとはいえない。すなわち、
(A) 成立に争いのない甲第五号証及び証人島田薫の証言によれば、大洋興産は、昭和四四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について銚子税務署長からローズウイスキーに対して賃貸している工場等の賃貸料四八万円が計上漏れになっているとして更正処分の通知を受けたことを認めることができるが、大洋興産が右更正処分に従って納税したか異議を申し立てたかが不明であるばかりでなく、原告が物件AないしCを取得してから前記の各譲渡をするまでの間にこれについて生じた賃貸料収入を原告の各事業年度の収益として経理していたことは前記のとおりであるから、大洋興産が右更正処分の通知を受けたことをもって右推認を左右するに足るものとはいえない。
(B) 前掲乙第二七号証及び証人宇野の証言によれば、前記の原告名義で徳林寺から別表8記載<1>ないし<3>及び別表9記載の各土地を賃借する際に同寺住職松正宣との間で取り交された「土地賃貸借契約書」には、原告がこの契約締結後三年以内に大洋興産の指定する法人ないし個人に対してこの契約による転貸借又は賃借権を譲渡する場合、徳林寺は右転貸又は譲渡を無償で承諾し、承諾書を発行するものとするとの条項があることを認めることができる。しかし、前掲乙第二七号証によれば、右条項によって徳林寺が右転貸又は譲渡を無償で承諾し承諾書を発行しなければならないのは、原告が徳林寺に対してその請求をした場合であることを認めることができ、大洋興産が宇野と共に原告の右賃貸借上の債務について連帯保証人になっていることは前記のとおりであり、前掲甲第七号証の一、二、乙第一七号証及び証人宇野の証言を総合すると、原告が右賃貸借当時宅地の賃貸の代理又は媒介等を目的としていなかったのに対して、大洋興産は、不動産業務を目的とする会社であったことを認めることができるから、これらの事実を併せ考えると、右の契約条項があることをもって右推認を左右するに足りるものということはできないというべきである。
(C) 昭和五六年四月二四日付けで東京運送に対して物件Bを譲渡する際に取り交された「賃借権譲渡契約書」及び同年九月九日付けで東京交通に対して物件Cを譲渡する際に取り交された「賃借権譲渡契約書」では共に原告、大洋興産及び千葉農林が譲渡人になっており、物件B及びCの各譲渡代金はそれぞれ原告、大洋興産及び千葉農林の取引金融機関に振り込まれていることについては、当事者間に争いがない。
しかしながら、前掲甲第七号証の二、乙第五〇号証、証人島田薫の証言及び同宇野の各証言(ただし、宇野のそれは一部)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の角括弧内の事実を除く事実を認めることができ(甲第九号証の一ないし三はいまだ右認定を左右するに足りるものとはいえないし、右認定に反する証人宇野の供述部分は信用できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)、次の角括弧内の事実については、当事者間に争いがない。すなわち、原告の本店所在地は、大洋興産及び千葉農林の各本店所在地とは異なっていたが、原告の事務は、大洋興産や千葉農林の事務所でなされ、大洋興産や千葉農林の事務と入り交じって処理されていた。そして、千葉農林の仕事に関しては実質的に宇野が決めており、宇野は、千葉農林は大洋興産の一部分との認識を持っていて、千葉農林の記名印及び代表者印を保管していた。同様に、宇野は、一時期を除いて、原告の記名印及び代表者印を保管しており、前記の代表取締役を辞任した後も、取締役として実権を握っていた。〔原告の代表者は加藤宗一となっているが、同人は、原告の営業、経理等の業務には一切関与しない肩書だけの代表者である。〕そして、物件Bの譲渡において東京運送の常務取締役として譲渡人側との交渉に当たった宮木勝美が契約直前まで譲渡人は原告とばかり思っていたこと、物件Cの譲渡が右の物件Bの譲渡と一体となるものとして同時に交渉が行われたが、物件Cに居住者がいてその立ち退きに時間がかかったために契約の締結が遅れたものであって、本来であれば物件Bの譲渡と同時に契約が締結されるべきものであっことは前記のとおりであり、前掲乙第五〇号証及び成立に争いのない乙第二九号証によれば、物件Bの譲渡の契約締結段階になって、宇野の要請により大洋興産及び千葉農林が譲渡人に加わることになり、物件Cの譲渡においても宇野の要請によって大洋興産及び千葉農林が譲渡人に加わることになったものであること、物件Bの譲渡代金のうち昭和五六年四月二四日に支払われた一億円及び同月三〇日に支払われた一億二九六〇万円が原告、大洋興産及び千葉農林の各取引金融機関に振り込まれたのも宇野の依頼によるものであり、同年七月一七日に支払われた二五〇万六〇〇〇円について東京運送が原告において五〇万一二〇〇円の、大洋興産において一七五万四二〇〇円の、千葉農林において二五万〇六〇〇円の各領収書を作成して現金と共に持参し、それぞれにその記名押印してもらったのも、同様の経緯によるものであること、物件Cの譲渡代金については同年九月九日に原告、大洋興産及び千葉農林に対して各銀行振出しの小切手で合計三〇〇〇万円が、同月三〇日に同じく合計三〇二三万二〇〇〇円が交付されたが、それも宇野の依頼によるものであることを認めることができる。したがって、物件B及びCを譲渡する際に取り交された各「賃借権譲渡契約書」において共に原告、大洋興産及び千葉農林が譲渡人になっており、物件B及びCの各譲渡代金がそれぞれ原告、大洋興産及び千葉農林に支払われたことをもって右推認を左右するに足りるものとはいえない。
(D) 成立に争いのない甲第六号証の一ないし六並びに証人島田薫及び同宇野の各証言によれば、原告は、昭和五一年三月期ないし昭和五七年三月期の別表5記載<1>及び<2>の各土地、別表5、別表8及び別表9記載の各建物や別表5記載<3>ないし<20>(別表8記載<4>及び<5>)並びに別表8記載<1>ないし<3>(別表9記載)の各賃借地の管理等の費用の一部を経理上仮受金勘定として処理していたことを認めることができるが、右の各期の確定決算において、右各土地、建物及び賃借地を原告が所有し又は有する資産として貸借対照表の固定資産の部に地上権又は借地権として計上し、また原告がこれについて生じた賃貸料収入及びその支払地代、固定資産税、管理費諸費の経費を原告の各事業年度の収益及び費用としてそれぞれ経理していたこと、原告の事務が大洋興産や千葉農林の事務所でなされ、大洋興産や千葉農林の事務と入り交じって処理されていたことは前記のとおりであるから、原告が右各土地、建物及び賃借地の管理等の費用の一部を経理上仮受金勘定として処理していたことをもって右推認を左右するに足りるものとはいえない。
そして、右推認に反する乙第四八(大洋興産の昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分の修正申告書)、第四九号証(千葉農林の右と同時期の事業年度分の修正申告書)の各記載部分並びに証人島田薫及び同宇野の各供述部分は、いずれも採用することができないし、他に右推認を左右するに足りる証拠はない。
2 本件Ⅰの更正処分の根拠及び適法性について
(一) 昭和五四年三月期の所得金額について
(1) 別表4記載の申告所得金額については、当事者間に争いがない。
(2) 原告が別表5記載<1>及び<2>の各土地並びに<21>の建物を所有し、別表5記載<3>ないし<20>の各土地の賃借権を有していたことは前記のとおりであるから、これが売却されて固定資産売却益が出たときは、右固定資産売却益は原告が享受するものといわなければならないところ、昭和五三年四月二七日に村本不動産に対して別表5記載<1>及び<2>の各土地並びに<21>の建物と別表5記載<3>ないし<20>の各土地の賃借権すなわち物件Aが代金七億円で売却されたことは前記のとおりであり、その譲渡原価が五三七万八八九八円であることについては当事者間に争いがないから、右代金額から右譲渡原価を差し引くと、固定資産売却益は六億四六二〇万一一二二円になる。したがって、原告は、右固定資産売却益を得たが、原告が右固定資産売却益を原告、大洋興産及び千葉農林に別表6記載のとおりに配分したとして、このうち一億二九二四万〇二二四円のみを収益の額として計上し、残額五億一六九六万〇八九八円を大洋興産及び千葉農林に対する未払金とする旨の会計処理を行い、これを原告の益金に算入しなかったことについては当事者間に争いがないから、五億一六九六万〇八九八円を固定資産売却益計上漏れとして原告の同期の申告所得金額に加算すべきである。
(3) 成立(甲第一号証については、原本の存在・成立共)に争いのない甲第一号証、乙第三二ないし第三六号証を総合すると、当該事業年度の欠損金は、昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度が八二八三万一六一九円、同年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度が九八〇一万九五二七円、同年四月一日から昭和五一年三月三一日までの事業年度が五九五五万六〇三二円及び昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの事業年度が二億三一九〇万二四三四円であることを認めることができるから、その合計四億七二三〇万九六一二円が損金算入繰越欠損金になり、それが原告の昭和五四年三月期の申告所得金額から減算されることになる。
(4) 以上のとおりであるから、原告の同期の所得金額は、〇円である。
(二) 更正の期間制限を徒過していないことについて
会社において代表者が税務会計事務の処理を放置し、又はそれを他の者に包括的に一任しているときは、実際に税務会計事務を処理し又は一任されて税務会計事務に当たる者の行為をもって法七〇条(昭和五六年法律第五四号による改正前のもの)二項四号に規定する「偽りその他不正の行為」を判断すべきであるところ、原告の代表者である加藤宗一が原告の営業、経理等の業務には一切関与しない肩書だけの代表者であり、原告の経営の実権を握っていたのが大洋興産の代表者であった宇野であって、宇野が千葉農林の経営についても采配を振るっていたこと、原告が別表5記載<1>及び<2>の各土地並びに<21>の建物を所有すると共に別表5記載<3>ないし<20>の各土地の賃借権を有してそれらの資産を支配しその利益を享受していたことは前記のとおりであり、前記三1の事実によれば、宇野は、そのことを知悉していたことを推認することができ、右推認に反する証人宇野の供述部分は信用できないし、他に右推認を左右するに足りる証拠はない。そして、証人島田薫の証言によれば、島田は、宇野からの原告の同期の税務会計事務処理上の指示に従って決算書類等の作成や法人税の確定申告等をしたことを認めることができるところ、前記のとおり、原告は、同期の所得金額について、本来その全部が自己に帰属すべき固定資産の売却益のうち、その八割相当額を宇野の支配下にある大洋興産及び千葉農林に帰属するものであるとして固定資産の売却益を過少に計上し、成立に争いのない乙第三七、第三八号証により認められる、同期の欠損金額を四四六五万一二八六円、翌期へ繰り越す欠損金額を四億四八七九万〇二三〇円とする法人税の申告を行い、後続事業年度において右欠損金額を控除することによって当該後続事業年度の法人税額を不正に免れたものであって、このことは、法七〇条(昭和五六年法律第五四号による改正前のもの)二項四号に規定する「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた」ことに該当するというべきである。したがって、被告は、同条項の規定による法定申告期限から五年を経過する日までの期間内に本件Ⅰの更正処分を行うことができるから、被告がした原告の昭和五四年三月期の法人税についての更正処分に更正の期間制限を徒過した違法はなく、適法であるといわなければならない。
(三) 本件Ⅰの更正処分の適法性について
以上のとおりであって、原告の同期の所得金額は〇円であり、これと同額を原告の同期の所得金額としてした本件Ⅰの更正処分は、適法である。
3 本件Ⅱの更正処分及び加算税の賦課決定の根拠及び適法性について
(一) 本件Ⅱの更正処分の根拠及び適法性について
(1) 昭和五七年三月期の所得金額について
ア 別表7記載の申告所得金額については、当事者間に争いがない。
イ 賃借権譲渡収入計上漏れについて
原告が別表8記載<1>ないし<5>及び別表9記載の各土地の賃借権を有し、別表8および別表9記載の各建物を所有していたことは前記のとおりであるから、これが売却されて固定資産売却益が出たときは、右固定資産売却益は原告が享受するものといわなければならないところ、昭和五六年四月二四日に東京運送に対して別表8記載<1>ないし<5>の各土地の賃借権並びに<6>の建物すなわち物件Bが代金二億二九六〇万円で、同年九月九日に東京交通に対して別表9記載の土地の賃借権及び建物すなわち物件Cが代金六〇二三万二〇〇〇円でそれぞれ売却(譲渡)されたことについては、当事者間に争いがない。したがって、右売買(譲渡)代金の金額は、原告の収入として計上されなければならないものである。ところが、原告が右譲渡代金合計二億八九八三万二〇〇〇円を別表10の各社別配分額欄記載のとおりに配分したとして、別表10の各社別計上欄記載の原告の譲渡代金額五七九六万六四〇〇円のみを収入金額として計上し、残額二億三一八六万五六〇〇円を計上しなかったことについては、当事者間に争いがない。そうとすれば、右残額は、原告の同期の申告所得金額に加算されるべきである。
ウ 賃借権譲渡にかかる精算金の計上漏れについて
前記東京運送に対する物件Bの譲渡の際に取り交された「賃借権譲渡契約書」の物件目録に記載されている賃借面積と実測面積との間に七・〇坪の差異があったため、東京運送が昭和五六年七月一七日に宇野に対して精算金として二五〇万六〇〇〇円を支払ったこと、原告がこれを収益の額に計上していなかったことについては、当事者間に争いがない。しかし、前記のとおり右賃借権の売買(譲渡)に関する収益はすべて原告に帰属すべきものであるから、右精算金も原告に帰属すべきものである。したがって、右精算金は、原告の同期の申告所得金額に加算されなければならない。
エ 雑収入計上漏れについて
原告が物件AないしCを取得してからそれらを各譲渡するまでの間にこれについて生じた賃貸料収入を原告の各事業年度の収益としてそれぞれ経理していたことは、前記のとおりである。ところが、原告がローズウイスキーから支払われた昭和四五年四月から昭和五三年三月までの賃料のうち五〇四万円を昭和五七年三月三一日に大洋興産に振り替えたことについては当事者間に争いがないから、原告が減額した右雑収入五〇四万円を計上漏れとして原告の同期の申告所得額に加算すべきである。
オ 賃借料の否認について
右エのローズウイスキーから支払われた賃料のうち七二万円を千葉農林が昭和五六年一二月三一日に雑収入に計上し、原告が同日にこれを自己の費用である賃借料として損金処理をしていたことについては、当事者間に争いがない。しかし、右エで判示したとおり右七二万円は原告が収受すべきものであって、原告の賃借料として損金に算入すべき理由がないから、右七二万円は、原告の同期の申告所得額に加算されなければならない。
カ 寄付金の損金不算入について
物件B及びCの売買(譲渡)代金の金額が原告の収入として計上されなければならないものであること、ところが、原告が右譲渡代金合計二億八九八三万二〇〇〇円を別表10の各社別配分額欄記載のとおりに配分したとして、別表10の各社別計上欄記載の原告の譲渡代金額五七九六万六四〇〇円のみを収入金額として計上し、残額二億三一八六万五六〇〇円を計上しなかったことは前記のとおりであり、原告が本来原告に帰属すべき収益の額及び費用の額を大洋興産及び千葉農林に振り替え、大洋興産及び千葉農林がそれぞれ一億八五五八万九六五八円及び二八四一万二三七〇円の利益を享受していることは後のコで判示するとおりであるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、大洋興産及び千葉農林からそれに見合う反対給付を受けている事実がないことを認めることができるから、右金額の合計額二億一四〇〇万二〇二八円は、法人税法三七条五項に規定する寄付金に該当するものというべきである。そして、前掲乙第一七号証及び弁論の全趣旨によれば、繰越欠損金控除前所得金額は欠損金三五三一万一九一二円であり、原告の同期末の資本等の金額は六〇万円であることを認めることができるから、同条二項の規定によって右寄付金の金額の損金算入限度額を計算すると、二億一一七六万七六五一円が損金不算入額となる。したがって、これを原告の同期の申告所得金額に加算すべきである。
キ 賃借権譲渡原価の認容について
前記のとおり、物件B及びCの譲渡収入は全額原告の譲渡収入となるべきものであるところ、物件B及びCの譲渡原価一八九九万五六一七円のうち一三二九万九六三二円及び一八九万九五六二円を大洋興産及び千葉農林にそれぞれ配分したことについては当事者間に争いがないから、その合計一五一九万六四九四円を原告の譲渡原価として原告の同期の申告所得金額から減算すべきである。
ク 補償費の認容について
前記のとおり、物件B及びCの譲渡収入は全額原告の譲渡収入となるべきものであるところ、大洋興産及び千葉農林が昭和五六年一二月三一日にそれぞれ賃借人のローズウイスキーの従業員の立ち退き等の補償費として三四〇万二〇〇〇円及び四八万六〇〇〇円を計上したことについては当事者間に争いがないから、その合計三八八万八〇〇〇円を原告の同期の申告所得金額から減算すべきである。
ケ 雑収入計上否認について
原告が徳林寺及び慈眼寺に支払った地代のうち大洋興産に五六三万三八一〇円を、千葉農林に八〇万四八三〇円をそれぞれ振り替え計上させ、昭和五六年一二月三一日に六四三万八六四〇円を雑収入に計上したことについては、当事者間に争いがない。しかし、前記のとおり両寺からの賃借人は原告であって、この地代は原告が負担すべきものであるから、大洋興産及び千葉農林に振り替えた右六四三万八六四〇円を原告の同期の申告所得金額から減算すべきである。
コ 寄付金の認容について
原本の存在・成立共に争いのない甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本来自己に帰属すべき物件B及びCの譲渡による収益の額及び費用の額を大洋興産及び千葉農林に振り替え、それによって、大洋興産及び千葉農林は、それぞれ別表11記載のとおり一億八五五八万九六五八円及び二八四一万二三七〇円の利益を享受していることを認めることができる。したがって、その合計二億一四〇〇万二〇二八円は、法人税法三七条五項に規定する寄付金に該当すると認められるので、これを原告の同期の申告所得金額から減算すべきである。
キ 損金算入繰越欠損金について
前掲甲第一号証、乙第三九、第四〇号証によれば、昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの事業年度の売却益計上漏れ認定に基づく繰越欠損金は一〇九〇万五一六二円であり、昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度の繰越欠損金は二七二五万一一九〇円であり、同年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度のそれは一億〇〇〇九万九二一〇円であることを認めることができるから、その合計一億三八二五万五五六二円を原告の昭和五七年三月期の申告所得金額から減算すべきである。
(2) 本件Ⅱの更正処分の適法性について
以上のとおりであって、原告の同期の所得金額は三八二〇万〇一七七円であり、これと同額を原告の同期の所得金額としてした本件Ⅱの更正処分は、適法である。
(二) 本件Ⅱの加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
(1) 過少申告加算税の根拠及び適法性について
原告が同期にかかる法人税額等の確定申告を別表2の所定欄記載のとおりに行ったこと、被告が適法に本件Ⅱの更正処分をしたことは前記のとおりであるところ、被告は、法六五条一項、三五条二項の規定に基づいて、右更正処分により納付すべき本税の額一五〇八万三九〇〇円から後記の重加算税の対象とされるべき一〇五万二〇〇〇円を差し引いた残額一四〇三万一〇〇〇円(法一一八条三項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。以下、同じ。)の規定により一〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税の賦課決定をしたものであるから、本件Ⅱの加算税の賦課決定処分中過少申告加算税の賦課決定処分は、適法である。
(2) 重加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
原告が同期にかかる法人税額等の確定申告を別表2の所定欄記載のとおりに行ったことは前記のとおりであり、原告が同期において賃借権譲渡にかかる精算金を会計帳簿に計上せず、右精算金二五〇万六〇〇〇円を原告の実質経営社である宇野に領得させていたことについては当事者間に争いがないから、課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装して、その隠ぺいし又は仮装したところに基づいて法人税の確定申告書を提出したことになる。そうとすると、被告は、法六八条一項に基づいて、本件Ⅱの更正処分により新たに納付すべき法人税額のうち一〇五万二〇〇〇円(法一一八条三項の規定により一〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の三〇の割合を乗じた三一万五六〇〇円に相当する重加算税を賦課決定したものであるから、本件Ⅱの加算税の賦課決定処分中重加算税の賦課決定処分は、適法である。
4 本件Ⅲの更正処分及び加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
(一) 本件Ⅲの更正処分の根拠及び適法性について
(1) 昭和五八年三月期の所得金額について
ア 過大控除した繰越欠損金について
原告の同期の申告所得金額が〇円であることについては当事者間に争いがなく、原告が同期の申告に当たって前期以前に発生した欠損金のうち昭和五八年三月期に繰り越した繰越欠損金が四億五〇七二万七六三二円あるとして、このうち一億三〇一三万二二二三円を同期の繰越欠損金控除前の所得金額から控除したことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。しかしながら、前記のとおり、右繰越欠損金は、本件Ⅰ及びⅡの各更正処分の結果、既に全額控除済みであって、原告が同期に繰り越した繰越欠損金は存しない。したがって、原告が同期において繰越欠損金として一億三〇一三万二二二三円を控除したのは過大控除と認められるので、原告の同期の申告所得金額に加算しなければならない。
イ 未納事業税の認容について
弁論の全趣旨によれば、本件Ⅱの更正処分により増加した所得金額にかかる事業税相当額は、四二六万九〇〇〇円であることを認めることができるから、これを原告の同期の申告所得金額から減算すべきである。
(2) 本件Ⅲの更正処分の適法性について
以上のとおりであって、原告の同期の所得金額は一億二五八六万三二二三円であり、これと同額を原告の同期の所得金額としてした本件Ⅲの更正処分は、適法である。
(二) 本件Ⅲの加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
原告が同期にかかる法人税額等の確定申告を別表3の所定欄記載のとおりに行ったこと、被告が適法に本件Ⅲの更正処分をしたことは前記のとおりであるところ、被告は、法六五条一項、三五条二項の規定に基づいて、右更正処分により納付すべき本税の額五一九〇万二〇〇〇円に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税の賦課決定をしたものであるから、本件Ⅲの加算税の賦課決定処分は、適法である。
四 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 並木茂 裁判官 春日通良 裁判官本間健裕は、転補のため署名・押印できない。裁判長裁判官 並木茂)
別表1
<省略>
別表2
<省略>
別表3
<省略>
別表4
<省略>
別表5
物件A
<省略>
別表6
<省略>
別表7
<省略>
別表8
物件B
<省略>
別表9
物件C
<省略>
別表10
<省略>
別表11
<省略>
別表12
<省略>